取組楽曲と進捗一覧

ABCDE
1
作曲家名楽曲名総小節数暗記小節数暗記小節数の割合
2
フレデリック・ショパンマズルカ遺作第24番4040100.00%
3
フレデリック・ショパンポロネーズ第6番「英雄」181181100.00%
4
フレデリック・ショパン前奏曲第3番3333100.00%
5
フレデリック・ショパン新しい練習曲第2番6060100.00%
6
モーリス・ラヴェルクープランの墓よりトッカータ25212951.19%
7
フレデリック・ショパン練習曲作品10第1番792227.85%
8
ヴラディミール・ホロヴィッツカルメン変奏曲1573220.38%
9
クロード・ドビュッシー前奏曲第5番「アナカプリの丘」961212.50%
10
ヨハン・セバスティアン・バッハパルティータ第5番9588.42%
11
モーリス・ラヴェル鏡より「鐘の谷」5447.41%
12
モーリス・ラヴェルクープランの墓よりメヌエット12800.00%

2019年4月1日月曜日

ホロヴィッツのカルメン変奏曲を弾きたい! 第8.5回

 録音はありませんが、引き続き、急速なパッセージ(譜面)を練習中です。



 今日は趣向を変えて考察です。ホロヴィッツがこの部分を弾く時、上昇する部分では、手をほとんど握った状態で、小指だけ上に突き出ている格好となっています。残っている彼の映像のすべて見られる手の使い方で、特段変わったものではなく、癖か何かだと思って、なぜこの形になるのかは考えていませんでした。ところが、何か秘密があると思い、問いを変えてみます、すなわち、「なぜこの形でなければならなかったのか」。

 答えは、考えるよりも鍵盤に触れてみなければ出てきません。私が該当の部分を弾きながら、この手の形を維持する感覚は、ちょうど握力計測器を少しでも良い記録を出そうと握りしめるような感覚に近いものでした。握力計測器を握る場合、小指は手のひらに向かうのが自然ですが、運指の関係で小指の担当鍵盤がある場合、一度内側から外に出して伸ばす必要があります(手を広げる力と握る力の大きさは比較になりません)。前もって外に出しておけば一動作減るため、事故が減るという算段でしょう。ホロヴィッツがあの手の形をしている時は、非常に強い力で鍵盤を押し籠めていると考えて差し支えなさそうです。

 音楽方面の効果を考えてみると、この急速な場面に限りますが、この握りしめようから推察される音と比べて、決して音量の出ている場面ではありません。主としてmfレベルの音量で上下する半音階の連なりが美しい場面で、必要な握力としては過剰に思えます。しかし、ここで気をつけなければならないのは、ホロヴィッツは右ペダルを踏んでおらず、左手の和音をスタッカートで弾き、一種のグルーヴ感を維持しようと試みている点です。同曲中まったく同じ型の音をペダル有りで弾く場面があり、そこでは和音を響かせているところから、弾き分けていることは間違いありません(この点からも、ホロヴィッツが無神経な場当たり的な曲芸師と言う評は当たらない)。「なぜこの形でなければならなかったのか」、結論は、「グルーヴ感を維持しながら、半音階の連なりの美しさを前面に出したい」からです。

 音をつなげるには右ペダルの音響付加の補助が有効ですが、前述の理由でペダルを踏むことができない。そこで、左手の音量を適当に維持し、半音階の連なりをできる限り目立たせるため、握りしめるように鍵盤をつかむわけです。ピアノはちゃんと底鳴りしてくれました。二律背反を解決するのは力技と相場が決まっているようです。

 これは、編曲上の技法についてですが、一つ書いておかなくてはなりません。ピアノの音が出る仕組みは、鍵盤を押し込むと、押した鍵盤に係る消音機能を持つダンパーが上がる、それと同時に、ハンマーが弦を叩いて音が鳴というものです。なお、右ペダルを踏むと全鍵盤のダンパーが上がる構造となっています(Wikipediaに図表付きのわかりやすい解説があります)。ところが、今話題にしている半音階の連なりが始まる音の高さ部分には、ダンパーが付いていません(標準仕様です)。つまり、左手部分(全て)のダンパーは下がったまま、右手はペダルを踏んだ状態の音が得られるというわけです。効果はお聴きの通りです。ピアノの構造をよく心得た編曲です。ホロヴィッツが無教養な馬鹿と言う評も、少なくとも保留が必要のものと言えます。